研究概要

はじめに 電場による物性制御

当研究室では 半導体や超伝導体や強磁性体など興味深い電気・磁気的性質(物性)をもつ固体の研究を行っています。固体の電気・磁気物性は電子やホールなど電気伝導を担う伝導キャリアの 濃度によって大きく変化します。 我々は独自に開発した電気二重層トランジスタという電子デバイス によって固体中の伝導キャリアを制御し、新しい材料や新しい機能性デバイスの実現を 目指して研究を行っています。

電場誘起による新規超伝導体探索

新しい超伝導体、とりわけ高温超伝導体の発見 は物性物理学の観点からも超伝導応用の観点からも大きなインパクトを持ちます。 当研究室では電場誘起により伝導キャリアを作り出す「電界効果ドーピング」により新しい超伝導体の実現を目指しています。2008年に絶縁体への電場誘起超伝導を初めて報告、 2011年には新規超伝導体タンタル酸カリウム(KTaO3)を発見しました。 今後は遷移金属酸化物や化合物半導体などへ研究を 展開し、新しい高温超伝導体の発見を目指します。

"Field-induced superconductivity in electric double layer transistors", K. Ueno, et al.,
J. Phys. Soc. Jpn., 83, 032001 (2014). doi:10.7566/JPSJ.83.032001
"Discovery of superconductivity in KTaO3 by electrostatic carrier doping", K. Ueno, et al., Nature Nanotechnology 6 408 (2011).
"Electric Field Induced Superconductivity in an Insulator", K. Ueno, et al.,Nature Materials 7, 855 (2008).

磁性の電場制御:新しい磁気デバイス

物質の中のスピンを電気的に制御するスピントロニクスが注目されています。 当研究室では伝導キャリアによって磁性が大きく変化する強磁性半導体 Co:TiO2のデバイス応用を目指して研究をしてきました。2011年には室温での 常磁性から強磁性への電気的なスイッチングを実現しています。また、2013年からは 強磁性金属であるCo極薄膜の磁気的性質を電界効果によって制御する研究をすすめ、 SrTiO3 単結晶を誘電体として用いることで Co の磁気異方性エネルギーの効率を 大きく高めたことを報告しました。 今後はデバイスの応用を進めるとともに、スピン自由度を持つ絶縁体と電界効果を 組み合わせることで今までにないスピントロニクス材料・デバイスを開発します。

"Electric field control of magnetic anisotropy in a Co/Pt bilayer deposited on a high-κ SrTiO3", S. Nakazawa, K. Ueno, et al.,
Appl. Phys. Lett., 110, 062406(2017).doi: http://dx.doi.org/10.1063/1.4976028 "Electrically-induced ferromagnetism at room temperature in cobalt-doped titanium dioxide" Y. Yamada, K. Ueno, et al.,Science 332, 1065 (2011).
"Anomalous Hall effect in anatase Ti1-xCoxO2-δ at low temperature regime", K. Ueno, et al.,Applied Physics Letters, 90, 72103 (2007).

研究プロジェクト

当研究室は今まで科研費若手Aをはじめ、新しい超伝導材料を目指す JST さきがけ 細野領域 や二次元超伝導の物性を探求する 科研費新学術領域「トポロジカル量子現象 の研究プロジェクトを進めてきました。現在は JST CREST 「軌道/電荷の揺らぎを用いた低熱伝導性-高電気伝導性素子の開発」や 科研費基盤S「電界効果による磁性の制御と誘起」などの分担者として、熱電材料や磁性体への 電界効果の展開、半導体デバイス工学の展開を狙い、研究を広げています。 います。 また、様々な企業が提供する財団助成にも積極的に応募し、実用化への展開を含めた 研究を進めています。

進学希望の方へ

上野研究室は東京理科大学、東京農工大、横浜国大、群馬高専専攻科など多くの 大学からの学生を受け入れてきました。研究分野が物性物理学、無機・電気化学、 電子工学の境界領域であるため、学生の出身分野も様々です。

そのため、大学院入学後に物性物理学の基礎からの勉強を教科書の輪読で進めると ともに、半導体・材料工学の実験技術を学んでいきます。また、隔週で研究の進捗報告会で プレゼンテーションの技術を磨くとともに一歩一歩着実に研究を進め、半年あたり一回担当する セミナーで自分の分野のレビュー論文や原著論文を紹介することで研究のバックグラウンド についての理解を深めます。

修士二年の秋には多くの学生が応用物理学会・日本物理学会で 発表しており、修士卒業までの進捗が十分にあった学生は修士二年の春学会でも発表します。 また、物理学者として学術系の就職を目指す方には修士の時点から博士課程までの5年間を見据えた 教育を行います。

当研究室は物性物理学だけではなく、材料科学や電子工学、電気化学 など幅広い分野にまたがった研究をしています。フレッシュなアイデアで、いままでに ない新しい研究分野を作り出しましょう。